存在価値がサポートを生む
果たして、上述の問題を解決する方法はあるだろうか。強い好奇心に囚われた当事者が、自発的にこの問題を解決することは不可能だろう。集団としての強制力で、問題行動を管理するにしても、人を監視し続けるわけにもいかず、問題行動を完全に無くすことはできない。
あとは、問題を起こす人を許容するしかない。私の経験では、このような人は実際に許容される。その理由は、このような好奇心旺盛な人の、集団における存在価値が極めて高いからだ。
人の存在価値は、その人が周囲の期待を超えるものをどれだけ生み出せるかで決まる。そして、その人の欠点は、存在価値に全く影響しない。開発エンジニアの場合で言えば、その存在価値は、会社の次の商品につながる新技術に関する大量の実験データを生み出すことにある。
エンジニアが生み出す実験データは、人が初めて目にする価値のあるものばかりだ。会社のメンバーは、新製品を設計する上で、そのデータが重要な着想を与えることを十分に承知している。
そして、開発エンジニアは、実験に没頭し、メンバーの期待を圧倒的に上回る量の実験データを出し続ける。だからこそ、エンジニアが実験に没頭するあまりに問題を起こしても、許されるのである。そして、欠点としての問題行動を、他のメンバーがカバーしてくれる。
組織には規範があり、メンバーは互いにその規範を守ることを求め合う。一方でメンバーは、人には個性があり、ひとつの型に収まらないことも十分理解している。組織は、規範を尊重しながらも、存在価値を認め合った人同士が、互いに弱い部分をカバーし合って成り立つものである。
集団は個人の価値観がぶつかり合う環境だ。メンバーは互いに相手に興味を抱くとともに、期待をする。この期待は興味対象である相手に抱く、自分の価値観が具体的に表れたものだ。この価値観が認識するものが、自分にとっての相手の存在価値である。
メンバーは、一度存在価値を認めた相手に対し、自分が認めた価値を高めたいという欲求を抱く。その欲求に基づいて、できる限りのサポートを行うのである。好奇心の赴くままに生きるためには、自分の存在価値を認めてくれる集団に身を置き、自らの好奇心を思う存分発揮することで、集団における自らの存在価値を高めることが大事になる。