価値観が変わる体験を生む好奇心の力

エッセイ

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4.好奇心が持続・拡大する事例① 

意外性が持続させる好奇心


 前のページでは、好奇心を高める上で、飽きるという人の特性を抑えることが課題であることを述べた。このページと次のページでは、飽きることなく興味を持ち続け、広げ続ける状態とは一体どのようなものか、私が経験してきた事例で示していきたい。
 
 私は以前、電子機器を製造・販売する会社で働いていた。エンジニアとして、新製品の製造プロセスや、製品に用いる材料の開発を行っていた。業務として、製造装置の選定や動作条件の検討、原料の種類や配合比の検討など、複数の要素技術にまたがる製造条件の設定を行っていた。
 
 製造条件の組み合わせの数は、ほぼ無限にあると言っていい。無数の組み合わせの中から、目標特性を達成できる最適な条件の組み合わせを見つけるため、あたりをつけながら、様々な条件をしらみつぶしに実験でテストしていた。長い開発では、実験が数年に及びこともあった。
 
 開発計画を作成する段階で、開発エンジニアは経験と知識を活かし、最小限の実験数で最適な条件の組み合わせを見つけるべく、実験の進め方をイメージする。ただし、開発というのは、実際にやってみないとわからないことばかりで、このイメージはほとんど妄想の世界である。それでも、頭の中では開発が完了するまでのイメージを作り、実験を開始する。
 
 私もそうやって、イメージを持って実験を行っていた。しかし、所詮は妄想の産物だ。実際に実験を行うと、想定していない悪い結果ばかり出る日々が続いた。うまくいかないことに悔しさを強く感じてはいたが、めげることはなかった。逆に想定外の結果が出ることを楽しんでいた。
 
 開発エンジニアというのは、予想と異なる実験事実を知れば興奮する。そして、イメージを妄想し直し、すぐに新たな実験をワクワクしながら企画するような人種だ。新たな事実が分かるたびにこの作業を繰り返す。開発が完了し、妄想と現実が一致するまで繰り返す。
 
 この開発エンジニアが興奮しながら妄想と実験を繰り返す行動は、未知のもの理解したいという単純な好奇心よりも能動的な、自分が持つイメージを現実化したいという欲求に基づいている。
 
 常に妄想で作られるイメージが先にあり、次に実際に未知のものに触れ、イメージとは異なる新事実を知る。意外な事実を知った興奮がさらに妄想を掻き立て、イメージを進化させる。そして、最後にはイメージ通りの新技術を完成させる。
 
 世の中を便利にする科学技術の発展は、このようなエンジニアの尽きない妄想と実験の繰り返しに支えられていると言っても良い。
 
 この事例から見える重要なポイントは、未知の対象に触れる前に、限られた情報に基づいた妄想で、その対象のイメージを膨らませることが大事だということだ。事前の妄想イメージと実際に触れて知る事実とのギャップが、追求すべき新たな着眼点を明確にしてくれる。
 
 この事前のイメージは、前のページで述べた常識とは異なる。このイメージは願望であり、現実とのギャップを埋めたいという欲求を常に生み出す。このような欲求が生まれる状況に遭遇したからこそ、人は興奮する。そして、興奮をともなった欲求が、新たな着眼点から発想する、ギャップを埋めるための自発的な行動を人に促す。
 
 このように、事前のイメージが生み出す意外性に興奮する過程を繰り返し、新たな着眼点が生まれる続けることで、人は飽きずに特定の対象への、興味を追求する行動を持続できるのである。
 
 この意外性を明確に認識するには、あるアイテムが必要だ。次のページでは、そのアイテムが具体的にわかる事例を示す。